TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が平成28年2月4日、署名されました。
TPPについて詳しくはこちら(首相官邸)
このTPP条約の締結は日本人の生活を大きく揺るがす可能性があります。
よく言われている「農産物とかの関税がなくなるんでしょ!」ということだけでなく、雇用環境や医療制度・金融商品などにも大きな影響があるのです。
これらの影響は、これから会社を起業するあなたには特に重要な問題です。
正しいTPPに関する5つの重大な影響を知っておくことがあなたの起業を成功に導くだけでなく、起業した後に「こんなはずじゃなかった」と後悔することに対する予防にもなるのです。
TPPの基礎知識や生活への影響にも触れながら、具体的に会社を起業する際に気をつけるべきポイントについて主にまとめました。
目次
農業分野で起業したい人が気をつけるポイント
TPPが農業に及ぼす影響
日本の農林水産物の生産額は約3兆円減少?
全ての農林水産物の関税が撤廃されたとすると生産額が約3兆円減少する、そんな悲観的な見方があります。
実際には単に安くなるからといって、安易に外国産のものばかりを日本人の消費者が選択するとは思えませんが、大きな影響がでることは間違いないでしょう。ですので、規制緩和する品目としない品目が設けられています。
輸入品目で関税が撤廃される品目の例
ソーセージ | 10%の関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、6年目に撤廃されます。 |
牛タン | 12.8%の関税が協定の発効後、段階的に引き下げられ、11年目に撤廃されます。 |
鶏肉 | 11年目までに関税を撤廃します。 |
生の果物や野菜 | すべての品目で関税を撤廃します。そのうちキャベツやほうれんそう、トマトなどは3%の関税が協定発効後すぐに撤廃します。 |
輸入ワイン | 協定の発効後8年目以降は関税が撤廃されることが決まりました。 |
緑茶 | 現在の17%の関税が発効から6年目に撤廃されます。 |
輸入される品目の5分の4が関税撤廃
とはいえ、日本が輸入している農林水産物は2,328品目あり、そのうち1,885品目で関税が撤廃されるようで、その割合はなんと約81%、つまり5品目のうち4品目です!
これは段階的に引き下げられていくようなので、あなたが農林水産業や卸売業、輸送業などを起業されようとされているのなら、関税撤廃の時期に注意しておきましょう。
JAがTPPに反発する3つの理由
食糧自給率の低下
JAはTPP締結に強い危機感を募らせています。その理由は大きく分けて3つです。
1つめは食料自給率の低下です。すでに米以外の主要な食べ物の多くを輸入に頼っている日本ですが、それに拍車がかかりそうです。
食の安全・安心がおびやかされる
2つめは遺伝子組み換え作物が、遺伝子組み換え作物かどうかわからない(表示されない)で販売される、そんな可能性も指摘されています。
もちろん、農薬や異物混入、産地偽装など様々な危険性が考えられます。
日本の農家が成り立たなくなる
これが一番大きい問題でしょう。ただでさえ高齢化・過疎化が進む日本の農家が今以上の苦境にさらされる可能性があります。
農業のビジネスチャンスはこれ!
外国人労働者の教育
すでに農村地帯では、中国や東南アジアの外国人が働いていたり家族になったりしていますが、その動きがTPPで加速するとなると、そこにビジネスチャンスも生まれそうです。
後に述べるように、雇用の流動化は避けられませんので、今のうちから日本語や日本の文化を理解した外国人労働者を教育するビジネスは可能性が拡がっていると思われます。
縦型水耕栽培
関税の撤廃で外国からの野菜の輸入が増えるかもしれません。そうなると、農薬の問題や鮮度の問題などが気になります。
そこで、家庭内でできる縦型水耕栽培の導入をビジネスとしてみてはどうでしょうか?
コストパフォーマンスの課題はあるものの、天候に左右されず無農薬で野菜が取れる仕組みは、健康増進と食糧不足解消にもなるので、今後拡大が期待される分野です。
工業分野で起業したい人が気をつけるポイント
99%の工業製品が関税撤廃
日本がTPP参加国に輸出している工業製品の輸出額は約19兆円に上っています。
TPPの大筋合意で、11か国全体で86.9%の品目が協定の発効後すぐに関税がなくなります。その後も段階的に関税は引き下げられ、最終的に99.9%の品目で関税が撤廃されます。
自動車を例に
このように、TPPの関税が撤廃されることは、自動車が主要輸出産業である日本にとっては追い風です。
例えば、TPP加盟国との間の関税は以下のように撤廃されていきます。
アメリカ |
日本から輸出している自動車にかけられている2.5%の関税を25年かけて段階的に撤廃することになりました。 |
カナダ・ベトナム | 日本から輸出している乗用車の本体にかけている6.1%の関税を段階的に削減し、5年かけて撤廃することになりました。 |
ニュージーランド | 自動車の本体にかかっている10%の関税が協定発効後すぐに撤廃されるほか、エアコンやショベルカーなどへの5%の関税もすぐに撤廃されます。 |
工業のビジネスチャンスはこれ!
自動運転車
現在はGoogleカーなど、アメリカが一歩先を行っている自動運転車ですが、日本メーカーもコンピュータや各種センサーなどの技術がアメリカに追いつけば、日本は世界最大の市場になりますし、輸出もできるようになるでしょう。
完全に無人運転になるにはまだ障壁が大きいですが、高齢者向けや自動パーキングなどの技術であればすぐにでもビジネスチャンスにつながりそうです。
ドローン
ドローン産業は、日本の科学技術が生かせる分野です。現在のところ、海外製のドローンが日本市場のほとんどを占めていますが、自律行動を可能にするプログラム技術やハードウェア・ソフトウェア・サービスなどでビジネスチャンスがありそうです。
金融業界で起業したい人は要注意!
金融業への影響
アメリカは金融業を復活させた
そもそも当初のTPPの内容に金融サービスは排除されていました。それが参加国の増加とともに交渉が繰り返されていきます。そしてアメリカは金融や知的財産権などを復活させたのです。
農業や工業以上に金融、特にデリバティブに関する規制緩和こそがアメリカの真の狙いだったのでしょう。
その効果は未知数ですが、アメリカではすでに「1%の富裕層が99%のそれ以外の人を支配している」とも言われていますので、それに近い状況が日本で生まれてもおかしくないのです。
行政・著作権
日本の行政機関が民営化される?
「政府に関係する全ての事業が民営化されるかもしれない」と聞いてあなたは信じられるでしょうか?でもアメリカでは行政サービスが完全民営化されていますし、そのことで行政が資本主義の論理で動いたり、行政サービスの格差が拡がり行政サービスの公正が失われています。
起業するには様々な行政手続きが必要ですが、それらががらりと変わると考えると、その大変さがどれほどか想像がつくのではないでしょうか?
著作権などの知的財産権
また、著作権などの知的財産権もあまり注目されていませんが、TPPの導入で大きくかわってくるでしょう。
特許や著作物に関しての考え方がTPPによってまるっきり違うものになってしまったら、会社の業績に大きく響くだけでなく、訴えられる可能性すらあります。
日本がアメリカのような訴訟社会にならないという保障はないのです。
医療・保険での起業はさらに大変
アメリカ医療の実態
アメリカは、日本のように国民皆保険ではありません。そのため、診療拒否が日常的に起きています。例えば、歯科医で銀歯を入れないとか、骨折しても自分で治すとか、保険がないという理由で入院拒否されたり(日本ではせいぜいたらいまわし)するのが現状です。
起業する時に気をつけるポイント
薬や医療機器の価格高騰
アメリカが日本における医薬品の規制緩和を迫ってくると、薬や医療機器の価格が高騰する可能性があります。
ジェネリック医薬品などもひろまっていますので、本当に必要な薬や医療機器を適切に患者に適正な価格で提供できれば素晴らしいですね。そこに起業のチャンスがあるかもしれません。
診察の格差
また、アメリカの民間企業が病院経営に参入してきた場合、株主に支払う配当を確保するために患者が受けるべき必要な医療を削り、逆に売り上げを伸ばすために過剰な検査や投薬を行うことも考えられます。
これは、上記のようにアメリカが国民皆保険ではないためで、金持ちには過剰に医療行為を施し、お金がない人には最低限の診療すらしない、そんな状況が日本にももたらされるかもしれないということです。
そのようにならないようにするためにはどうすればいいか?そこに起業のアイディアがあるような気がします。「医は算術なり」という考え方は避けたいですね。
ガン保険
アメリカのガン保険会社が日本市場をずっと独占していることにお気づきでしょうか?
そもそもガン保険自体が日本など世界の一部でしか流行していないのですが、その日本の市場の約7割をアメリカのガン保険会社が支配しているのです。
今後TPPの導入でガン保険を含む保険業は大混乱状態に陥る可能性はあります。日本人が海外の保険の有利な保険を選択するようになるかもしれないのです。
会社を起業するときに雇用の流動化への対応は必須
外国人社員を雇用する機会が増える
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金ということを政権は強調していますが、もともと低い賃金で満足できる外国人労働者と物価の高い日本で暮らす日本人労働者の賃金をあわせるとなるとどうなるでしょう。
あなたは、言葉や文化が違っても安い賃金で満足する外国人労働者の方を選択せざるをえない状況にこれからなるかもしれません。
少子高齢化
さらに、日本の少子高齢化は間違いなく進みますので、外国人労働者の受け入れはどんどん規制が緩くなっていくでしょう。
これまでも農村などでは外国人労働者がすでに入り込んでいますが、第一次産業やアルバイト・パートだけでなく、普通に若い外国人の正社員が会社に務めるようになっていくでしょう。
さらにTPPの影響で外国人労働者がビザなしで渡航可能になっていったら、気がついたら公務員の大半が外国人になる、そんな未来も考えられなくないですね。
外国企業の誘致が促進される
安倍政権は経済政策の柱として海外企業を日本に誘致しようとしています。
これまでは日本の法人税が他国と比べて高かったのですが、今よりも10%以上さげる構想があるようです。そうなると、外国企業が積極的に日本にやってくる可能性が高くなります。
あなたが起業した後の競合は、こういった外国企業かもしれません。
解雇に関する変更
解雇が金銭で解決される?
日本にも早期退職制度などすでに存在していますが、TPPの導入で解雇規制が緩和されていくようです。
それは、解雇が金銭で解決されるというものです。
日本の失業率の低さは世界トップレベルですが、それも崩れてしまうかもしれません。ただ、規制緩和されたからといって簡単にこれまで尽くしてくれた人を解雇しにくいですよね。
特にあなたが起業した当初からあなたを支えてくれた功労者であればなおさらですね。
「派遣」がかわる
これまで、ソフトウェア開発、通訳や秘書、事務、財務処理、案内、受付、駐車場管理などの「26業務」は無期限で派遣社員を受け入れることができていました。
ところが、すべての業種で派遣社員受け入れ期限を3年とする「改正派遣法案」が国会で通ったそうです。つまり、「派遣」に対する考え方ががらっとかわりそうです。
あなたが起業したときに、従来の派遣のつもりで労働者を雇ったら大変なことになるかもしれませんね。
雇用の流動化はとまらない
TPPにより国際的な雇用の流動化が始まります。日本の労働者は、海外の労働者と仕事を取り合うことになるでしょう。その流れは止まりませんし、TPPの締結で加速されるのです。
外国人労働者を雇用する前提で英語ぐらいはマスターしておいた方が良いかもしれませんね。
まとめ
TPPの締結はもう揺るがしようがないようです。ですので、その決定について文句をいってもなにも始まりません。時代は常に変化しますので、それに応じた柔軟な対応が会社を起業する者にとっては欠かせません。
考え方を変えると、TPP締結によって日本に多くの混乱が訪れる可能性がありますので、あなたがその人達を助ける目的で会社を起業すると思ってみてはどうでしょう。
そのためにはこの記事だけでなく、最新のTPPに関する情報に対してしっかりアンテナを張り、特にアメリカとの交易については敏感に反応することが大事でしょう。