企業が資金を調達する方法には、数多くのものがあります。代表的な手段としては、銀行など金融機関からの融資が挙げられますが、ケースによっては「私募債」と呼ばれる手段も効果的でしょう。私募債を効果的に活用すれば、金融機関からの融資よりも良い条件で資金を調達できる可能性があります。
そこで今回は、この私募債に関する概要と、私募債により資金を調達する手順などについて解説していきましょう。
■私募債とは?
私募債とは、少数の投資家に向けて発行される社債のことを指します。それに対して、不特定多数の投資家に向けて発行される社債は公募債と呼ばれており、公募債は私募債に比べると規模が大きくなります。
では、具体的にどのような条件を満たしていれば、私募債として扱われるのでしょうか?以下で詳しく見ていきましょう。
〇社債購入者の人数
私募債の購入者は50名未満とされています。また、私募債として扱う場合、発行者は購入者を縁故者に限定し、直接的に社債を募集しなければなりません。
例えば、社債購入者が50名未満であっても、不特定多数の投資家に対して募集する場合は、公募債として扱われます。
〇社債購入者の属性
社債購入者の中に金融関係のプロが存在する場合、その社債は私募債として扱われません。金融関係のプロとは、証券会社や銀行の従業員などを指します。
〇社債の最低額
私募債では、社債の最低額(一口)が「発行総額の50分の1以上」と定められています。つまり、社債の金額が低すぎる場合は、私募債として扱われません。
〇その他の条件
仮に社債購入者が、その社債を50名以上の多数の者に譲渡した場合、その社債は私募債としては扱われません。
上記が私募債として扱われる条件となりますが、金融機関に所属する機関投資家のみに向けて発行される社債も、私募債として扱われることがあります。このケースに限っては、社債購入者が50名を超えていても問題はありません。
■私募債で資金調達する10の手順
では、企業がこの私募債によって資金を調達するには、どのような手順を踏めば良いのでしょうか?次からは、私募債で資金調達をする手順について解説していきます。
【手順その1】社債発行条件を決める
まずは、社債発行条件を決定します。決める必要がある具体的な条件としては、以下のものが挙げられます。
〇社債募集総額
現実的に難しい総額を設定すると、社債購入者が現れない恐れがあります。そのため、必要以上の金額に設定することは避けるようにしましょう。
希望金額に届くこと、現実的に実現可能な金額であることを意識して、慎重に募集総額を決める必要があります。
〇口数と社債1口あたりの金額
社債募集総額を、募集する人数で割った金額が1口あたりの金額です。最大限の人数に向けて発行する場合は、募集総額を49で割った金額に設定しましょう。
この段階で高額に上る場合は、社債募集総額を考え直す必要があります。
〇社債利息
社債利息は、投資家にとってメリットとも言える部分です。そのため、満額の応募を実現したい場合には、投資家が興味を示す利率に設定する必要があるでしょう。
一般的には、金融機関の預金金利よりも高い数値(年利2%~5%前後)に設定されるケースが多くなっています。
〇払込期日
募集から払込期日までが近すぎると、投資家が資金を用意できないかもしれません。そのため、払込期日はある程度の余裕を持った日付に設定することが望ましいでしょう。
〇償還期間
償還期間とは、社債の返済期間のことです。一般的には3年~6年前後に設定されるケースが多く、具体的な返済方法は満期一括償還が主流です。
【手順その2】取締役会による決議
少人数私募債を発行する前には、取締役会の決議において、私募債の発行を決定する必要があります。取締役会がない会社については株主総会、もしくは社員総会の決議で私募債の発行を決定しましょう。
決議が済んだら、取締役会議事録や株主総会議事録を作成し、決定した内容を記録します。議事録については、その取締役会から10年間会社で保管をする必要があるので注意しておきましょう。
【手順その3】社債募集要項を作成する
事前に決定した社債発行条件をもとに、社債募集要項を作成します。募集要項は購入を検討してもらう材料となるので、今一度社債発行条件を見直し、内容に問題がないか入念にチェックしましょう。
問題が見つからなければ、勧誘対象者に公開する社債募集要項を作成します。
【手順その4】事業計画書を作成する
勧誘対象者を納得させるには、実現性の高い事業計画書も必要です。事業計画書には、社債発行条件や募集要項に加えて、以下の項目を盛り込むようにしましょう。
・会社概要
・事業内容(商品やサービス、事業を進める計画など)
・私募債の目的と使途
・経営戦略や市場分析
・今後の資金計画
【手順その5】私募債の勧誘
事業計画書を作成したら、ひとまず準備は完了です。次は私募債の対象者を決定し、その対象者に向けて勧誘を行います。
対象者を決定する場合には、会社の重要な情報を公開するので、信用できる投資家を厳選することが大切です。情報が漏洩すると経営が傾きかねないため、慎重に対象者を選ぶようにしましょう。
対象者が決まったら、個別に訪問したり、説明会を開いたりすることで勧誘を行います。
【手順その6】社債申込証を作成し、受理する
私募債においては、社債申込証以外の申し込み方法は無効となります。社債申込証に関しては、以下の項目を記載するようにしましょう。
・申込者の氏名や住所
・発行会社の商号
・社債の総額と種類
・社債の利息(利率)
・社債の金額
・社債の発行価額
・償還方法と償還期間
・利息の支払い方法と期間
なお、実際に私募債を募った場合に、応募金額が募集金額に達しない可能性もあります。そのため、「実際の応募金額を私募債の総額とする」といった旨の注意書きも必要です。さらに、一口あたりの金額が高額に上る場合は、複数人でも購入できる旨を記載しておきましょう。
社債申込証を作成したら、対象者に必要事項を記入・提出してもらい、社債申込証を受理します。
【手順その7】審査を行う
社債申込証を受理したら、記載されている内容を参考に審査を行います。各対象者の情報を確認したら、発行額を決定していきましょう。
なお、応募金額が募集金額を超えた場合には、一般的に以下のような措置が取られます。
・募集金額を増額し、対象者に伝える
・一部の対象者に減額してもらうか、もしくは購入自体を断る
【手順その8】社債募集決定通知書を送付し、入金してもらう
社債発行額が決まったら、できるだけ早めに社債募集決定通知書を購入者へ送付しましょう。社債募集決定通知書には、主に以下の項目を記載します。
・申込金額
・払込期日
・振込口座
購入者はこの社債募集決定通知書を参考に、申込金額分を入金します。
【手順その9】社債申込証拠金預り証を発行する
入金を確認したら、その購入者に対して社債申込証拠金預り証を発行します。この書類には、以下の項目を記載するケースが一般的です。
・申込金額の受領日
・受領金額
・社債の券面金額
・社債の枚数
【手順その10】社債名簿(社債原簿)を作成する
社債名簿の作成は、会社法において義務付けられています。社債名簿には、以下の項目を記載するようにしましょう。
・社債権者の氏名や住所
・社債を購入した年月日
・償還方法と償還期限
・利息の支払い状況
・償還の申し出
・譲渡人の氏名や住所
社債名簿を作成したら、ひとまず作業は完了です。あとは社債名簿の内容に応じて、償還や利息の支払いを行います。
このように、私募債で資金調達をするためには、多くの手順を踏まなければなりません。必要な手順が抜けていると、私募債として扱われなくなったり、対象者を説得できなかったりする恐れがあるので注意しておきましょう。
■私募債のメリット
私募債のほかにも、企業が資金を調達する手段は数多くあります。では、その中で私募債のメリットとは、一体何なのでしょうか?
次からは、私募債のメリットについてご紹介していきます。
【メリットその1】スピーディーに発行できる
上記の手順を見ると、「私募債の発行には時間がかかる」と感じるかもしれませんが、公募債に比べると私募債は簡単に発行できます。特に、社債の管理を委託する必要がない点、募集人数が少ない点などは、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
短期間で資金を用意する必要がある場合に、私募債は効果的な手段と言えます。
【メリットその2】余裕を持った返済計画を立てられる
一般的なケースでは、私募債は4年~5年前後をかけて償還します。そのため、銀行の融資などに比べると返済計画に余裕を持ちやすく、毎月の負担を抑えやすくなるでしょう。
短期的な資金繰りに苦しんでいる企業にとって、これは魅力的な部分と言えます。
【メリットその3】償還の条件の自由度が比較的高い
私募債は融資とは違い、会社側が利率や償還期限を決めることができます。購入対象者が興味を持つような条件に設定する必要はありますが、融資に比べると償還の条件は自由度が高いと言えるでしょう。
【メリットその4】企業の優秀性をアピールできる
私募債を発行するには、前述のようにさまざまな条件をクリアしなければなりません。そのため、私募債を発行することによって、「財務内容が比較的優秀な企業」といったイメージを周りに与えられます。
イメージアップをはかることで、将来のビジネスチャンスが増えるかもしれません。
【メリットその5】知名度が上昇する
私募債を発行すると、新聞などのメディアに取り上げられることがあります。それにより、会社の知名度が上昇し、将来のビジネスチャンスにつながる可能性があるでしょう。
また、私募債で知名度を上昇させて、それを機に公募債を発行する企業も中には見られます。
■私募債のデメリット
私募債にはメリットがある一方で、デメリットも存在しています。私募債の発行を検討している方は、必ず以下のデメリットを理解してから、発行を慎重に判断するようにしましょう。
【デメリットその1】必要資金を調達できない可能性がある
私募債は公募債に比べると規模が小さく、原則として縁故者に対して募集が行われるので、会社によっては必要資金を調達できません。また、担保・保証人が不要であることから、購入対象者が償還のリスクを懸念し、購入者がなかなか現れない可能性も考えられます。
そのような事態に陥らないように、募集要項やアピールの方法を工夫する必要があるでしょう。
【デメリットその2】慎重に資金管理をする必要がある
一般的に私募債は一括償還となるケースが多いので、私募債を発行した企業は一括償還に向けて、慎重に資金管理をしなくてはなりません。償還時には多額の資金が必要になるので、計画的に償還資金を貯めておくことが大切です。
■まとめ
今回は私募債の概要やメリット・デメリットについてご紹介しました。
私募債の発行にはさまざまな準備が必要となりますが、公募債に比べると手続きは簡単であり、短期間で資金をねん出できる可能性があります。ただし、ケースによっては必要資金を集めることが難しいので、詳細に関しては慎重に決めていく必要があるでしょう。
また、短期的な資金の調達方法としては、売掛金を売却する「ファクタリング」も効果的な手段です。資金調達プロのホームページでは、このファクタリングの無料診断を短時間で受けられるので、資金繰りに悩んでいる方は積極的に活用してみましょう。