創業時には、物件費や設備費、仕入れ費などさまざまな初期費用がかかります。そのため、銀行に融資の申し込みを行う起業家は多いことでしょう。
しかし、銀行の融資には審査があり、事業内容をはじめ会社のあらゆる部分が審査対象となるので、融資を受けるのは簡単なことではありません。すでに複数の銀行に申し込みを行い、審査に落ちてしまった方もいるのではないでしょうか?
そのような方は、最大3,000万円まで融資を受けることができる、日本政策金融公庫(日本公庫)の新創業融資制度の利用を検討してみましょう。銀行の融資を受けられなかった方でも、新創業融資制度であれば融資を受けられる可能性があります。
ただし、新創業融資制度においても審査は実施されるので、ここでは創業融資の審査を通す5つのコツをご紹介していきます。
目次
■【その1】審査担当者が何をチェックするのかを把握しておく
新創業融資制度では、審査担当者が重視するポイントがある程度決められています。どのようなポイントが重視されるのかを把握し、審査への対策を立てておくことで、融資を受けられる可能性は一気に高まるでしょう。
では、具体的にどのようなポイントがチェックされるのかについて、以下で詳しく解説していきます。
〇自己資金割合
自己資金割合とは、創業資金に対する自己資金の割合のことです。例えば、創業資金が1,000万円、自己資金が500万円とすると、自己資金割合は50%となります。
新創業融資制度においては、この自己資金割合が高いほど融資を受けやすいとされています。なお、自己資金割合が10%を切るようなケースでは、融資を受けることは難しいとされています(一部ケースを除く)。
なお、自己資金割合の確認方法は、「起業家の預金通帳の提出」となります。資金の調達方法も確認されるので、一時的に知人などから入金してもらうなど正当ではない方法で貯められた資金に関しては、自己資金としては認められません。また、事業以外に使用する予定の資金についても、原則として自己資金とは扱われないので注意しておきましょう。
3,000万円の創業融資を受けるとなると、必要な自己資金はその10分の1にあたる300万円となります。300万円の自己資金がない場合は、自己資金が貯まるまで事業の開始を遅らせることも検討してみましょう。
〇起業家個人の信用性
起業家個人の信用性も、審査においてはチェックされるポイントになります。例えば、公共料金や携帯電話料金、ローンの支払いなどを滞納した記録が残っていると、それだけで信用を得ることは難しくなります。そのため、通帳から引き落とされる各種料金については、延滞が発生しないように細心の注意を払うようにしましょう。
また、審査では個人信用情報も確認されます。つまり、過去の金融トラブルにより信用情報にキズがついていると、融資を受けられる可能性は大きく下がります。
〇事業計画書の内容
これは当然とも言えますが、新創業融資制度の審査においても事業内容は重視されます。利益性があることはもちろん、将来性や継続性、事業の実現性なども判断材料とされるので、審査を受ける前には質の高い事業計画書を作成しておく必要があるでしょう。
審査担当者は審査のプロであるため、根拠のない内容に関しては厳しくチェックを行います。つまり、都合よく算出した数値については、一切信用することがありません。
事業計画書で担当者を納得させるには、あらゆる情報に根拠を持たせることが必要です。そのためには、多方面からさまざまな情報を収集する必要がありますし、もちろん分析も必要になるでしょう。分析において資料を参考にする際は、その資料の信憑性も問われることになります。
実際の審査では、ほかにも細かい部分がチェックされますが、主に重視されるポイントは上記の3つになります。まずは、重視されるポイントを把握し、その上で具体的な準備に取り掛かっていきましょう。
■【その2】資金使途を明確にしておく
新創業融資制度においては、融資された資金は全て事業資金として扱わなければなりません。そのため、事業計画書などにおいて資金使途が曖昧になっていると、その時点で審査担当者からの評価は下がってしまいます。
また、単に事業計画書に内訳を記載しただけでは、当然ですが審査担当者から信用されることはありません。各資金に関して、見積書などで使途を証明する必要があるので、まずは資金使途を明確にするところから始めましょう。資金使途を明確にし、「どれぐらいの資金を何に使うのか」という部分がはっきりとすれば、見積書の用意にも取り掛かれるはずです。
では、各資金について見積書を用意すれば、審査担当者から確実に信用されるのでしょうか?残念ながら、答えはNOです。
見積書を用意したとしても、審査担当者が「これは不必要な使途」と判断すれば、必要な資金とは認められません。新創業融資制度では、基本的に不必要な資金を融資することはないので、必要性がほとんどない資金を使途に含めないようにしましょう。
なお、新創業融資制度においては、融資限度額3,000万円のうち、運転資金は1,500万円までと上限が決められています。つまり、設備資金が少なからず1,500万円以上になっていないと、その時点で3,000万円の融資を受けることはできません。
その点にも注意しながら、資金使途を明確にして内訳に関する書類を作成しておきましょう。
■【その3】事業内容の説得性を高める努力をする
事業内容に関しては、ただ斬新なアイディアを思いついただけでは高く評価されません。審査担当者を納得させるには、「この事業は成功する可能性が高い」と感じさせる必要があります。
しかし、事業内容の説得性を高めるのは簡単なことではありません。もちろん情報収集も重要になりますが、それ以外にも取り組むべきことがあります。
ひとつ目は、「顧客と取引先の確保」です。どのような事業も、顧客や取引先がいなければ商売は成り立ちません。しかし、逆を言えば創業前から顧客や取引先を確保できていれば、スムーズに事業を始められる可能性が高まります。そのため、事業計画を作成する段階で顧客や取引先となる存在に目をつけて、可能であれば契約書なども作成しておきましょう。
また、「分析」にも力を入れる必要があるでしょう。経営に関する分析はもちろん、計画通りに事業を進めるためには市場分析やターゲット層の分析なども必要になります。分析は時間をかけるほど効力が高まるので、分析をする努力を惜しまないようにしましょう。
さらに、「補足資料の作成」も重要なポイントになります。ただ数字が羅列されている資料よりも、グラフや図表を用いてきれいにまとめた資料のほうが、審査担当者の理解度は深まるでしょう。
事業内容について分かりづらい部分に関しては、必ず補足資料を作っておきましょう。なお、口頭で情報を補足する手段も考えられますが、融資の可否を最終的に判断するのは審査担当者個人ではないので、情報の共有漏れを防ぐために全ての情報を資料に記載しておいたほうが安心です。
■【その4】収支計画は複数年分作成しておく
どのような金融機関でも、融資をする際には相手の返済能力を重視します。それは政府系金融機関である日本公庫も同様であり、返済能力が乏しい会社や経営者に対しては、基本的に融資を行いません。
そのため、支出計画に関しても質の高い書類を作成しておきましょう。支出計画に関しては、複数年分の計画を提出する方法が効果的です。1年分など短期の支出計画では、将来的に会社がどうなるのか判断しづらいので、最低でも3年分の収支計画は用意しておきましょう。
また、売上計画書や収支計画書を作成した結果、「赤字続き」になっているケースは意外と珍しくありません。当然ですが、赤字続きになっている事業計画書を提出すると、審査担当者からの評価は大きく下がります。
少なくとも、融資の返済金額をまかなえる利益は必要になるので、ただ事実を記載するだけではなく、問題が見つかったらその部分を解決しながら資料の作成を進めていきましょう。
■【その5】徐々に信用を得ることも検討する
これまで経営に関する実績がない方は、どうしても高い評価を受けることが難しくなります。これまでご紹介してきた方法である程度の実績不足は補えますが、実績不足は融資元にとってやはり不安の種になるためです。
しかし、新創業融資制度を一度利用しきちんと返済をすると、それだけで返済の実績を築くことができます。そのため、「希望金額を借り入れる自信がない…」という方は、まずは300万円以下の小口融資から始めることを検討してみましょう。
借り入れた金額が少額であったとしても、完済をすればそれはひとつの実績になります。実績を築けば当然信用性は高まるので、次回からより多くの金額を借り入れられる可能性が高まるでしょう。
ちなみにですが、ほかの融資制度も含めた日本公庫の平均融資単価は、700万円前後と言われています。つまり、新創業融資制度において、初めから3,000万円の融資を受けるのはそれなりにハードルが高いと言えます。
融資希望金額を下げるだけで審査には通りやすくなるので、小口融資からスタートしてコツコツと信頼関係を築くことも考えてみましょう。
■まとめ
今回は、創業融資の審査を通す5つのコツをご紹介してきました。
新創業融資制度では、融資希望額を少額に抑えれば審査に通過することはそれほど難しくありません。しかし、上限の3,000万円を借り入れるとなると、審査担当者を納得させるために、さまざまな準備を済ませておく必要があるでしょう。
また、これまでの実績が少ない経営者に関しては、どれだけ入念に準備をしたとしても、いきなり3,000万円の融資は難しい可能性があります。「今すぐに3,000万円が必要なわけではない」という方は、まずは小口融資からスタートして、コツコツと信用を得る手段も検討してみましょう。