現代の日本では、開業した飲食店は2年以内に50%廃業すると言われています。毎年多くの方が飲食店を開業していますが、飲食店の経営は簡単なものではなく、必ずしも期待通りに経営が安定するわけではありません。
失敗にもさまざまな要因が見られますが、その中のひとつとして「準備不足」が挙げられます。準備不足の状態では、スケジュール通りに開業をすることができず、急に発生したトラブルに対応することも難しくなるでしょう。
そこで今回は、飲食店開業の10のステップをご紹介していくので、ひとつずつ確認しながら準備を進めていきましょう。
目次
■【その1】店舗の詳細を決める
飲食店を開業するにあたって、まずは店舗の詳細を決める必要があるでしょう。何を提供するのか、誰(どんなターゲット層)に提供するのかという部分が決まらないと、綿密な事業計画を立てることはできません。
では、具体的にどのような詳細を決めれば良いのでしょうか?以下で簡単に見ていきましょう。
・客層…平均年齢や平均年収などから、ターゲットとなる客層を決める
・中心となるメニュー…客層を踏まえて、中心となるメニューを決める
・サービス…メニュー以外に、お客に提供するサービスを決める
・コンセプト…メニューや内外装に関して、コンセプトを決める
上記の中でもコンセプトは、他店との差別化に必要な要素です。魅力的な部分はマネをすることも大切ですが、個性がないお店はお客の印象に残りづらいため、固定客を作ることが難しくなる恐れがあります。コンセプトが決まれば、中心となるメニューやサービスのイメージもつきやすくなるので、悩んでいる方は客層とコンセプトを最初に決めるようにしましょう。
なお、店舗の詳細を決める前には、市場調査や競合店の調査を行うことが重要です。地域性や競合店によって、「お店のどこを武器にするのか」は変わってくるので、調査や分析にかける時間を惜しまないようにしましょう。
■【その2】適した物件を探す
店舗の詳細が決まったら、次は店舗に適した物件を探すことになります。物件によって、確保できる席数やキッチンの構造、宣伝効果などは大きく異なるので、実際に経営することをしっかりとイメージして、適した物件を探していきましょう。
物件探しでは、主に以下のポイントに注意をする必要があります。
・広さや構造…席数やキッチンの構造、スタッフの動きなどに影響する
・立地条件…宣伝効果に影響する
・家賃や購入費用などのコスト…初期費用やランニングコストに影響する
広さや構造は、お店の回転率にも影響を与える要素です。飲食店の利益は、客単価と回転率によって大きく変わってくるので、事前に売上目標を立てて理想の回転率を実現できる構造の物件を選ぶようにしましょう。
なお、物件を決める際には、実際にその物件に足を運ぶことが重要です。自分の目で確かめないと、思わぬ部分に不備などが見つかる恐れがあるので、写真や情報のみで判断する行動は危険と言えます。
■【その3】事業計画を練る
金融機関などから融資を受けるには、基本的に事業計画書が必要となります。なお、仮に融資を受けない場合であっても、事業の流れを確認したり問題点を見つけたりするために、事業計画書を作成するケースが一般的です。経営リスクを抑えることにもつながるので、必ず事業計画書は作成するようにしましょう。
会社やお店によって事業計画書の内容は異なりますが、事業計画書には主に以下の内容を記載していきます。
・起業の動機と目的
・事業内容やお店の規模
・売上予測と収支計画
・資金の調達方法
上記の中でも、特に売上予測や収支計画については、「根拠のある数字」を記載することが重要になります。さまざまな数値を記載しても、各数値に根拠性がなければその予測や計画には意味がありません。もちろん、金融機関の審査担当者も納得しないでしょう。
数値に根拠を持たせるには、市場分析などの分析が必要になります。より多くのデータを参照する、信用性の高い参考資料を使用するなど、分析時にも工夫を取り入れて質の高い計画を作成するようにしましょう。
なお、融資を受けるために事業計画書を作成する場合は、3年以上の中期的な売上予測・収支計画を用意しておくことが望ましいとされています。
■【その4】資金を調達する
飲食店を開業するためには、多くの資金が必要です。店舗を構える資金はもちろん、従業員の給与や光熱費なども用意しなくてはなりません。お店によっては、開業資金が1,000万円を超えることもあるでしょう。
開業資金を調達する方法は人によってさまざまであり、少額であれば自己資金から全てねん出する方も見られます。また、親族や知人から借りる方も少なくありません。
さらに、融資を受ける場合であっても融資元には複数の選択肢があります。具体的な融資元としては、銀行や信用金庫、政府系金融機関である日本政策金融公庫などが挙げられるでしょう。
このように資金の調達方法はさまざまですが、方法ごとに調達可能金額やリスクなどが異なるので、調達方法は慎重に選ぶべきです。例えば、知人から借りる方法は銀行よりも利息を抑えられるかもしれませんが、人間関係のトラブルに発展するリスクが潜んでいます。「調達までにかかる時間」も、調達方法を選ぶ重要な判断材料となるでしょう。
なお、光熱費や人件費などの運転資金については、最低でも3ヶ月分は用意しておく必要があります。開業後すぐに売上が伸びるとは限らないので、売上が少なくても数ヶ月は経営できるように、余裕をもって資金を用意しておきましょう。
■【その5】店舗の設計・施工に取りかかる
資金調達の目途が立ったら、次は店舗の設計・施工へと取りかかります。購入した中古物件をそのまま利用するケースも見られますが、そうでない場合は設計士と施工業者を探す必要があります。
設計士や施工業者については、コストや工期を比較して選ぶことも当然重要ですが、基本的には自分の意見を伝えやすい相手を選ぶようにしましょう。例えば、安易に知り合いの設計士などに依頼をすると、気をつかって意見を言えなくなり、結果としてお店のコンセプトを失ってしまう恐れがあります。
設計士と施工業者が決まったら、いよいよ設計と施工に取りかかります。お店によっては1ヶ月以上かかることもあるので、設計・施工の時期には資金調達や事業計画の見直しなど、ほかの仕事も並行して進めるようにしましょう。
■【その6】メニューの開発・作成
一般的な飲食店には、看板メニューのほかにも多くのメニューがあります。飲食店の売上は、看板メニュー以外の影響も大きく受けるので、開業前にしっかりとメニューを作りこんでおきましょう。
メニューを作成する際には、「原価」を意識することが大切です。原価を踏まえて各メニューの価格を設定することになりますが、基本的には販売価格が原価の30%となるように調整するケースが多くなっています。
メニューが固まれば、必要になる仕入れの量なども判明してきます。仕入れの量を決める際には、料理をこぼすなどのトラブルも想定し、少し多めに量を設定するようにしましょう。
■【その7】設備を導入する
店舗を構えただけでは、まだ飲食店を経営することはできません。料理を作るには厨房設備が必要であり、お店によっては券売機や空調などの設備も必要になります。
また、テーブルやイスなどのインテリアに関しても、この段階で決めていきましょう。インテリアは自由に選べる部分ですが、お店のコンセプトを意識してカラーやデザインを選ぶことで、お店に統一感が生じます。
当然ですが、食器類も事前にそろえておくべきものです。飲食店の雰囲気は、これらの設備や備品のデザインに左右されるので、導入する設備・備品は慎重に選ぶようにしましょう。もちろん、経営を圧迫しないようにコストを抑えることも大切です。
■【その8】届け出をする
飲食店を開業するには、以下の機関への届け出が必要となります。
〇保健所
保健所へは、飲食店の営業許可に関する届け出をします。届け出をすると保健所による検査が行われ、特に問題が見つからなければ営業許可証が交付されます。
スムーズに営業許可証を受け取りたい場合は、事前にメニューなどを持参して管轄の保健所へ相談しておきましょう。
〇消防署
消防署へは、防火管理者選任届や防火対象設備使用開始届を提出します。消防署に関しても、事前に店舗の情報を伝えて相談をしておくことで、時間を短縮できる可能性があります。
なお、届け出の基準や規定は飲食店の経営状態によって異なります。そのため、購入した物件が以前飲食店だった場合でも、事前に基準や規定を細かく確認しておくべきです。
また、届け出のほかに、飲食店の営業には食品衛生責任者・防火管理者が必要になることも忘れてはいけません。届け出や資格は法律に関わる部分なので、漏れがないように準備を進めておきましょう。
■【その9】従業員の確保・教育
ここまで進めば、飲食店を開業することはすでに可能です。しかし、お店によっては自分以外の従業員が必要になるでしょう。従業員の質や数は、お店の売上やコストに関わってくるので、適切な人材を必要な人数だけ確保することが大切です。
また、従業員を確保したら、お店をスムーズに回すための「教育」をしなければなりません。接客や調理に関するマニュアルを作成しておけば、効率良く教育を進めることができるでしょう。
■【その10】オープンに向けて宣伝をする
最後は、飲食店のオープンに向けて宣伝をします。宣伝を特にしない飲食店も見られますが、開業直後から経営を安定させるには、宣伝は必要不可欠と言えるでしょう。
宣伝にも複数の方法があり、代表的なものとしては以下の方法が挙げられます。
・SNSなど、インターネットによる宣伝
・新聞や雑誌など、広告を利用した宣伝
・人通りの多い場所に看板を立てる
・チラシやポケットティッシュを配る
宣伝は方法によって、効果やコストが大きく異なります。また、飲食店の種類によって、効果の高い宣伝方法が変わる点にも注意しなければなりません。
費用対効果を意識し、自分のお店にとってコストパフォーマンスの高い宣伝方法を選ぶようにしましょう。
■まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した10のステップは、飲食店開業において最低限必要になる準備です。お店によっては、従業員のトレーニングなどさらに準備が必要になることもあるので、一度必要な準備を全て書き出してみましょう。
準備を万全にしておけば、開業後のトラブルにもすぐに対応できるはずです。準備は経営リスクを抑えることにもつながるので、早めに準備に取りかかるようにしましょう。