仕事に疲れてふらっと立ち寄ったラーメン屋で注文したラーメンを食べ、「これだったら自分にも作れそうだ!」とラーメン屋を創業したくなった経験はありませんか? または営業に失敗してトボトボとコーヒー店に入って、一杯のコーヒーを飲んで「俺だったらもっとおいしいコーヒーができる!」とコーヒー店のマスターを目指したい、そう思ったことがあるかもしれません。
実は、日本において創業するケースで最も多い選択肢が飲食店です。飲食店は許認可事業ですが、創業のハードルが他業種に比べて比較的低いため、脱サラして飲食店を創業しようという人が多いのです。 その一方で、飲食店は廃業率トップでもあるのです。近くで開店したと思ったらすぐに閉店する飲食店はけっこうたくさんあるのではないでしょうか?
実は、飲食店の創業に成功するには、たどるべき7つのステップがあり、すぐに閉店する飲食店はその7つのステップを守っていないのです。逆にその7つのステップを知ることで、長くお客さんに愛される飲食店経営を続けることができるのです。
目次
気軽に創業できる飲食店、そのメリットと落とし穴
飲食店経営の魅力
お客さんと身近に接することができる職業
飲食店のメリットとして、まずお客さんと身近に接することができることがあげられます。特にコミュニケーションが好きな人は、自分の好きな仕事をしながらしかも会話が楽しめるということで、飲食店を目指すのです。
しかし、望まざるお客さんがいることも知らなければいけません。金払いの悪い客、クレーマー、たちの悪いよっぱらい、その他相性の悪いお客さんもいるものです。
現金商売であること
また、飲食店のメリットとして現金商売であることも上げられます。これは、キャッシュフローの上でとても有利です。カードによる支払いや後払いだと、現金が手に入るのが翌月や翌々月になってしまうこともあります。カード払いに対応している飲食店もありますが、個人経営で飲食店を行うのであればたいていは現金払いでしょう。
食品衛生責任者資格取得が容易
飲食店を開業するには、食品衛生責任者という資格を取得しなければなりません。しかし、この食品衛生責任者は、取得のハードルがとても低い資格です。なぜなら、全国に存在する食品衛生協会で行われる一日講習を受講するだけで取得できるからです。
これだけ見ると簡単に飲食店を創業できそうにも思えますが、いくつかの落とし穴も存在します。
飲食店経営の難しさ
固定客がつくまでが大変
飲食店に限りませんが、客商売は固定客が付くまでが大変です。そのため、半年から1年は赤字経営であることも覚悟しましょう。また固定客にもいろいろな種類があります。毎日のように来る客、1週間に1回、1ヶ月に1回訪れるといった客もいます。
また、口コミの影響も大きいです。良い固定客がつくと、口コミで新たな客層が増えていきます。客の立場に立つと、新しくて行ったことがないお店に入るには勇気がいるものです。割引サービスやキャンペーンで呼び込むという方法もあるのですが、やはり一番強いのは口コミなのです。
コスト計算が甘いと大変
飲食店経営でまず突き当たるのが、コスト計算です。創業時の費用に気をとられて、日々かかるランニングコストを甘く見ているのが大きな原因です。 夏場や冬場はエアコンなどで光熱費がかかります。また人件費も追加で必要になる事があります。そして、原材料費が最も大きく値上がりすることもあります。
自宅で自分用に食事を作るのであればコスト計算はそれほど必要ありませんが、何十食、何百食作るのであればできるだけコストを抑える工夫も必要です。そして、コスト削減のために質の悪い食材を使えば、客はあっという間に離れていってしまうのです。
工夫してもマネされる
飲食店として繁盛させる条件として、独自の美味しい食事を提供することが挙げられますが、それも必ずしもうまくいくとは限りません。なぜなら、あっという間にまねをされてしまう可能性があるからです。
「つけ麺」を例にしましょう。つけ麺の元祖は東池袋大勝軒であるといわれています。
その後、マスコミなどで取り上げられて“つけ麺ブーム”がひろがったのですが、あっという間に日本中のラーメン屋がメニューにつけ麺を取り入れていきました。その結果、似たような商品があふれ、「うちが元祖だ」と名乗るラーメン屋もでてしまったのです。特に今ではインターネットで簡単に情報が流れますので、すぐにまねされやすくなっているのです。
グルメ系サイトに掲載されるかどうかがバカにならない
また、最近では「ぐるなび」や「食べログ」などのグルメ系サイトを、飲食店を利用する際の判断基準にしている人が増加しています。食事や内装の写真に加え、味や接客態度などのレビューが詳しく掲載されることもあり、もし悪い評価がついてしまったら大変なのです。他にもフェイスブックなどのSNSも参考材料にされます。
グルメ系サイトの例
・ぐるなび
・食べログ
ラーメン屋を例に考えてみましょう
ラーメン屋を創業したいと志す
ある日、ふとラーメン屋の大将になりたいと思ったとしましょう。友人に振る舞うラーメンはいつも高評価で「ラーメン屋やったら?」と進められ、サラリーマン時代の貯金を使えば何とかなるだろうと思って思い切ってサラリーマンをやめました。
安易な気持ちでラーメン屋開店
とりあえずおいしいラーメンを作ればもうかるだろう、特にコスト計算もせず、他のラーメン屋の見よう見まねで開店しました。衛生責任者の資格や行政への届け出が必要なことも後で知りましたがなんとくクリアし、一人でなんとかなるだろうと従業員を雇わずにオープンしました。さて、どうなるでしょう?
開店後、考えられるトラブル
後に述べる7つのステップをたどらずに起業してまず考えるのが資金繰りの失敗です。サラリーマン時代に多少貯金があっても、店舗の購入または賃料、内装、調理器具、食器、電化製品、その他考えもつかなかったような多額の出費が次から次へとでてきます。
他にも仕事が予想外にきつい、仕入れに失敗する、他店との差別化ができていないなど様々な要因が考えられます。そしてそれらの問題も資金不足に由来しているケースが多いのです。
ですので、そのような失敗をしないために、飲食店の開業に必要なだけの資金の集め方を知るべきです。その具体的な7ステップをご紹介いたします。
サラリーマンが飲食店創業融資を受けるまでの7つのステップ
ステップ① 準備:修行と資金集め
飲食店での修行
まず、飲食店をやりたい、と思ってすぐに開業するのは時期尚早です。まずは修行期間として他の飲食店でアルバイトなどをしてみるのが良いでしょう。良心的なお店であれば、のれんわけのような感じでいろいろなことを教えてくれる可能性もあります。
副業禁止規定などに抵触しなければ、サラリーマンをやりながら深夜アルバイトをしても良いでしょう。その中で、お客さんが多い時間帯の対応や迷惑客の対応方法など、自分が客の立場ではわからない裏の事情を学ぶことができるのです。
資金集め
また、資金は多すぎるということはありませんので、後のステップで述べるような資金計画をもとに、できる限り資金を集めるべきです。借りるよりも、できる限り自己資金があった方が良いです。また、融資を受ける条件にも自己資金がいくらあるかが大事になることもあります。
ステップ② 退職を円滑に行う
サラリーマンをしながら飲食店を経営するのは事実上不可能に近いです。退職をする必要があり時、いきなり「ラーメン屋を始めますので、辞めます」と退職届を上司に提出するのはあまりにも社会人としてふさわしくありません。
通常、退職届は1~2ヶ月前には提出すべきですし、その前に上司に相談するなどの根回しもすべきです。さらに退職時期が会社の繁忙期にならないこと、業務の引き継ぎを確実に行うことも大事です。
退職を円滑に行うか否かによって、会社の上司や同僚があなたの飲食店を支えてくれたり常連客になってくれる場合もあれば、支えになってくれないだけでなく妨害する人になってしまうことさえあります。
ステップ③ 理想の飲食店の構想を立てる
理想の飲食店の青写真を描く
このステップ③は、一番大事です。特に従業員を雇用する場合には、あなたが飲食店にかける理念を伝えるために、欠かせません。言葉が難しければ、まずはイメージしましょう。画用紙にスケッチしても良いです。
飲食店を開く目的
その作業はぜひ忘れずに行って下さい。なぜなら、それは飲食店を開業する目的に関わるものであり、仮に売上が全くない日が何日も続いた時にその目的さえしっかりしていれば成功するまであきらめずに経営を続けることができるのです。
ステップ④ 自己資金、家族や友人からの借り入れ
ステップ①でも軽く触れましたが、まずは自己資金をためることから始めましょう。親の飲食店を継ぐのでない限り、準備資金はいくらあっても足りないですし、運転資金のことを考えると想定される額にプラスアルファして準備すべきでしょう。
また、家族や友人からの借り入れも有効な手段です。特に友人は、ステップ②で円滑に退職し、遺恨を残さずに会社を去ることができれば、協力してくれる可能性がでてきます。ただし、家族や友人に資金の大半を借りることはやめましょう。万が一返済できなかったときに、決定的に信頼を欠いてしまうことになりかねないからです。
ステップ⑤ 不足分は創業融資を受ける
創業融資を受けるメリット
目的がしっかりし、自己資金を稼いで、親や友達からお金を多少借りても、まだ飲食店を創業するには不十分かもしれません。そんな時に頼りになるのが創業融資です。 飲食店を創業する上で、
選択肢は2通りに限られます。 その1つは日本政策金融公庫です。飲食店の種類にもよりますが、日本政策金融公庫の中でも「新規創業融資制度」はおすすめです。なんといっても担保・保証人が不要です。その分融資限度額が3,000万円以内、自己資金が創業資金総額の10分の1以上必要ではありますが、3,000万円あれば飲食店開業には十分でしょうし、サラリーマンとしての蓄えがあれば自己資金の要件もクリアできるでしょう。
もう一つ、都道府県からの制度融資という手段もあります。銀行や信用金庫からの融資が受けやすくなる制度ですので、日本政策金融公庫からの融資が得られなかった場合に検討しても良いでしょう。
資金計画を立てる
創業融資を受けるためには資金計画の作成が不可欠です。 そして、資金計画を立てる上で、日本政策金融公庫が作成する創業計画書を利用すると便利ですし、それをそのまま日本政策金融公庫に持って行って交渉することができます。
大事なのは「定性面」
創業計画書は「定性面」と「定量面」に別れています。
「定量面」は収支計画、つまり飲食店でどれだけの売上があり、どれだけの経費がかかって、いくらの利益が残るかです。ここで、サラリーマンで財務などの経験を行い貸借対照表を良く知っていれば理解は早いでしょうが、ここで挫折してしまう人もいます。ただおいしい食事を提供すればなんとかなる、という甘い気持ちが打ち砕かれてしまうからです。
しかしご安心ください。創業計画書においてもちろん「定量面」はとても大事ですが、それよりも「定性面」の方が重視されるからです。そもそも初めて起業して実績がないことは日本政策金融公庫の職員さんは百も承知です。 それでは「定性面」とはどのようなことを指すのでしょう?
具体的には創業計画書の左半分が「定性面」、右半分が「定量面」です。「創業の動機」や「経営者の略歴等」がありますが、要はあなたの人間性です。もっといえば、お金を貸して、確実に返してくれそうかどうか、なのです。 これは創業計画書をきちんと書くだけでなく、日本政策金融公庫の職員さんとの面談でも大事です。相手は創業融資のプロなので、人を見る目が肥えています。ごまかしはききませんので、正直に自分の人間性をアピールするのが、融資を受けられる一番確率の高い方法です。
ステップ⑥ 財務面のアドバイザーと連携する
そのような資金計画が自分一人の力で作れれば言うことなしですが、ただでさえ料理の味や店の内装など考えることが山のようにあるのに、そこまで頭が回らないのが通常です。そこで、財務面のアドバイザーの力を借りましょう。 そうすることで、資金計画作成のアドバイスをうけることができますし、創業後も顧問アドバイザーとしてなにかと力になってくれるかもしれません。
では財務のスペシャリストとは?
許認可事業を起業するとき創業融資の相談をする5つの相談相手を徹底比較
上記の記事に取り上げられている5つの相談相手の内、狙い目は「行政書士」かもしれません。少し意外に感じられるかもしれませんが、飲食店を開業する時に許認可などでなにかとお世話になることも多いので、試しに創業融資の相談をしてみても損はないでしょう。
ステップ⑦ 業務の運転資金、拡張資金を考える
ここまでは主に創業までのステップでしたが、仕事が順調にいったらそれで満足していてはいけません。飲食店として常に改善しなければ、ライバル店がでてきて根こそぎ大切なお客さんを奪われてしまうかもしれないからです。 そのために、より多くの運転資金や拡張資金が必要になる場合があります。
無理をする必要はありませんが、創業の時に比べれば実績も積み、銀行などの金融機関からの信頼も増しているはずですので、追加の融資に積極的に取り組んでも良いでしょう。 ただし、この追加の融資は、あなたが飲食店の経営者としての視点をもっていることが条件です。ただおいしい料理を作って自己満足に浸るのが目的であれば、このステップ⑦は無視しても良いでしょう。
創業融資獲得成功のための4つの秘訣
補足になりますが、創業融資を受けるための4つの秘訣をご紹介します。この4つの秘訣は必須ではありませんが、あったほうが成功しやすいです。
秘訣① 顧客像を明確にする
顧客像を明確にする大事さを、人気漫画「食戟のソーマ」のあるエピソードで見事に表していました。
ある日主人公のソーマ(と緋沙子)はあるレストランに研修生として行きました。その店は駅の近くにあり、大量のお客さんがやってきてはあっという間に去って行く、そんな店でした。ところが、店長や店員のこだわりでたくさんのメニューを提供することに誇りを持っていたのです。 そこでソーマはその店を「完全予約制」にすることを店長に提案しました。
店長は悩んだ末、完全予約制にしたことで、数多くのお客さんは断ることになりましたが、その反面昔からの常連客が帰ってきてくれました。 この例は漫画ですし、この決断が正しいかどうかは分かりませんが、このような判断をする基準は、ステップ③でふれたように、その店でどのようなことを実現したいか、目的を明確化することなのです。
秘訣② 他店舗との差別化
これも上記の「食戟のソーマ」の例で見ていきましょう。お客さんを断らずに受け入れるのは、「大衆料理店の戦略」です。一方で完全予約制にするのは「高級店戦略」です。これはどちらが正しいか間違っているかではなく、どちらを選択したいのかというあなたの決断次第なのです。
その他にも多くの差別化の方法はあります。例えば店の内装や香り、音楽などを工夫することです。自分でそれらを行っても良いですし、下記の様な専門家に依頼しても良いでしょう
秘訣③ 飲食店のキャッチコピー
また、差別化の一種ですが、キャッチコピーを工夫することも成功する秘訣です。そのキャッチコピーを聞いたら即座にその飲食店を連想するのが理想的です。
一例として、吉野家の「早い、うまい、安い」は一世を風靡しました。どうせなら、ありふれたキャッチコピーではなく客層をある程度絞った言葉、そして一度そのキャッチコピーを聞いたら気になって仕方なくなる、そんな言葉を目指しましょう。
秘訣④ 品質・味にこだわり続ける
上記のような工夫も大事ですが、やはり飲食店である以上、味はとても大事です。また食品の鮮度や産地などもとても重要です。昔から残っている飲食店は品質と味にこだわり続けていますし、それを何年、何十年継続しています。それだけのこだわりは、お客さんに必ず伝わるものです。
商売を軌道に乗せるためのコツ
最後に、飲食店をうまく軌道に乗せるための裏技のようなものをご紹介します。決してブラックな方法ではありませんので、安心してご覧ください。
紹介キャンペーン
あなたがある飲食店を選ぶときにまず何を基準にするでしょうか?マスコミや雑誌で紹介されるなどいろいろありますが、一番強いのは「口コミ」ではないでしょうか?そして、「紹介キャンペーン」はそんな消費者の心理を巧みについた戦略です。
具体的には、来客に「お友達を連れてきたらそれぞれ100円割引」などの特典をつけるのです。飲食店に限らず新規開業して一番大変なのは新規顧客の開拓です。そして、この「紹介キャンペーン」は損するように見えて、実は「口コミ」という安い宣伝を行うテクニックなのです。
常連客へのサービス
常連客へのサービスは、小規模な個人経営の店だからできるサービスです。大型店やチェーン店には難しい戦略です。ある意味「ひいき」なのですが、定期的に何度も足を運んでくれる常連客に手厚いサービスを行うのは当然のことなのです。 もちろん、常連客以外の人と極端な差別を行ってはいけません。さりげなく一品添えるなど、細かい気遣いで十分なのです。
SNS紹介割引
これは、スマホを持っている人が多い現在においてとても有効な戦略です。店にスマホのカメラ機能で読み取れるバーコードを作成し、そこから店の情報が手軽に手に入るフェイスブックなどにアクセスできるようにするのです。その画面を見せれば割引などのサービスをつければ、多くの人がアクセスしてくれるようになるでしょう。
「バーコードの作成なんて無理!」と思われるかもしれませんが、作成ソフトで簡単にできますし、まずはフリーソフトを利用すれば、リスクは少ないです。
ポケモンGOのブームに乗っかる
これは期間限定の可能性がありますし、もしかしたらこの記事をご覧になっている時点で古くなってしまっている情報かもしれませんが、「ポケモンGO」の「ポケストップ」が近くにあればそれを利用する方法があります。
「ポケストップ」に「ルアーモジュール」というアイテムを設置すると「野生のポケモン」が出現しやすくなります。この「ルアーモジュール」は自分だけでなく他のプレイヤーも利用できるので、店の営業時間帯にこの「ルアーモジュール」を使うことで「ポケモンGO」プレイヤーを集めるのです。
実際にマクドナルドの多くに「ポケストップ」が設置されていて、「ポケモンGO」のサービス提供開始以降、マクドナルドの業績は向上したそうです。
飲食店の創業をあまくみないで必要な準備をしよう
創業人気ナンバーワンであり、かつ廃業率もナンバーワン、それが飲食店です。なんとなく自分にもできそうだと思ってしまうのでしょうね。趣味で料理をやっている人であればなおさらでしょう。
しかし、飲食店を創業するということは経営者になるということです。これまでのサラリーマンという「雇われる」立場から「経営する」立場には大きな意識変革が必要になりますし、儲かるか儲からないかは全て自己責任になってきます。 もう一度7つのステップを見なおし、必要な準備はなにかをよく振り返ってみましょう。