「スキルを着実に身につけて、将来的に起業を目指したい」と考えているサラリーマンは、世の中に多く見られます。ただし、起業をするべきタイミングはいつ来るのか分からないので、いつでも起業に向けて動き出せるように、早めに準備を進めておかなくてはなりません。
起業をすると考えた時に、多くの方は株式会社の設立を検討するのではないでしょうか?以前と比べると株式会社設立のハードルは下がりましたが、それでも正しい手順を把握しておかなければ、株式会社を素早く設立することはできません。
そこで今回は、株式会社設立の手順を詳しくご紹介していきます。ベストなタイミングを逃さないためにも、事前に必要な知識を身につけておきましょう。
■株式会社の設立に必要な費用は?
そもそも、株式会社を設立するにはどれぐらいの費用がかかるのでしょうか?株式会社の設立には複数の費用がかかるので、各費用の金額を把握しておき、事前に資金を準備しておく必要があります。
では、以下で具体的な費用を見ていきましょう。
〇収入印紙代
会社の定款には、4万円分の収入印紙を貼る必要があります。電子定款ではこの収入印紙代はかかりませんが、電子定款の作成には特別な機器などが必要になるので、結果として4万円以上のコストがかかってしまう可能性があります。
そのため、収入印紙代は少なくとも4万円かかると考えておきましょう。
〇公証人への手数料
作成した定款は、公証役場にて公証人から認証してもらう必要があります。この際にも、5万円の手数料がかかるので事前に準備しておきましょう。
〇登録免許税
登録免許税の金額は、「資本金×0.7%」が基本となります。ただし、資本金が少なかったとしても、最低で15万円の登録免許税が必要となるので注意しておきましょう。
目安として、資本金が1億円の場合は70万円の登録免許税がかかります。
〇定款の謄本手数料
登記手続きの際には、定款の謄本手数料が1ページにつき250円かかります。一般的に、定款は8ページ前後に及ぶケースが多いので、謄本手数料としては2,000円前後が必要になると考えておきましょう。
上記の全ての費用を合計すると、株式会社の設立には少なくとも25万円前後の費用が必要です。ただし、これは自分で設立をするケースの費用となるので、第三者に設立を依頼する場合は、さらに追加で10万円前後の費用がかかります。
もちろん、コスト面から見れば自分で設立をする方がお得ですが、準備にかかる手間やスピードを考えると、必ずしも自分で手続きを行うべきとは言えません。設立手順については以下でご紹介していきますが、「それでも自信がない…」「手間取っていると、ビジネスチャンスを失ってしまう…」などの不安を感じている方は、弁護士や司法書士に依頼することも検討してみましょう。
なお、株式会社設立にかかった費用は経費として算出できるので、領収書などは全て保管しておくことが大切です。
■株式会社を設立する9つの手順
では、いよいよ株式会社設立の手順について見ていきましょう。下記の手順を無視すると、設立までに無駄な時間がかかってしまう恐れがあるので、正しい手順を理解しておくことが大切です。
【手順その1】株式会社の概要を決める
株式会社の設立前には、「設立項目」を決定する必要があります。手続きに向けて行動を起こす前に、以下の設立項目は必ず決めておきましょう。
〇商号
商号とは、株式会社の名称のことです。基本的に自由に決められますが、同一の住所に同じ商号の会社が存在する場合は、その商号を使用することはできません。
また、商号によって会社のイメージや宣伝のしやすさも変わってくるので、一般的に商号を決める際には以下のポイントが重視されています。
・呼びやすさ
・親しみやすさ
・インパクト
・分かりやすさ
〇事業目的
事業目的とは、その文字の通り「会社がメインとして行う事業」のことです。株式会社は原則として、事業目的から大きく外れる事業を行うことはできません。したがって、設立直後から始める事業だけでなく、将来的に計画している事業も含めておきましょう。
なお、事業目的は具体的かつ、違法性のない目的を挙げる必要があります。
〇本店所在地
本店とは、会社の主たる営業所のことです。設立登記時には、所在地まで明記する必要があるので、設立前に物件を決めておく必要があるでしょう。
株式会社の本店の選択肢としては、以下の物件などが挙げられます。
・自宅
・事務所
・レンタルオフィス
・テナント
・賃貸マンション
・バーチャルオフィス
・コワーキングスペース
物件によっては、商用利用や会社登記が不可となっているケースも見られるので、その点に注意しながら物件を探していきましょう。
〇事業年度の開始時期
事業年度とは、会社が決算を行う時期のことを指します。事業年度を何月にするのかによって、会社が決算を行う時期も大きく変わってくるので、事業年度は適当に決めるべきではありません。
例えば、売上のピーク時と決算時期がかぶると、十分に決算対策を施せない恐れがあります。そのため、事業年度の開始時期を決める際には、一般的に以下のポイントが重要視されています。
・税理士を確保しやすい時期
・売上のピークなど、忙しいタイミングとかぶらない時期
・免税期間を長く確保できる時期
〇資本金
資本金とは、企業が事業を進める際に使用する資本のことです。資金以外に、パソコンや車といったモノも資本の中には含まれます。
資本金に関しては、基本的に自由に決めても構いません。ただし、資本金不足で事業が滞ると困るため、一般的には起業から半年分程度の資本金が用意されます。
〇出資者
上記の資本金を誰が出資するのかによって、会社の機関設計は異なってきます。一般的に、株式会社の出資者は「株主」となり、会社に利益が生じた場合は配当を受け取ることができます。
なお、出資者に関しては個人・法人のどちらでも問題ありません。
〇機関設計
出資者の中に発起人以外が含まれる場合には、取締役会や監査役の設置などを検討する必要があります。特に、経営に介入する株主が存在する場合は、株主の意見をスムーズに取り入れる機関設計にする必要があるでしょう。
なお、会社の乗っ取り防止のために、株式譲渡制限の有無についても定めておくことが大切です。
〇印鑑と印鑑証明書
設立登記や定款の作成など、印鑑が必要になるケースは設立当初から多く見られます。そのため、少なくても4本は会社用の印鑑を用意しておきましょう。
なお、設立登記や定款の認証時には印鑑証明も必要になるので、あらかじめ印鑑証明書を準備しておくとスムーズに手続きを進められます。
上記のほかに、会社用のホームページを作成しておくことも大切なポイントです。ネット社会と呼ばれる現代では、会社のウェブサイトは必要不可欠なものと言えるので、会社の概要が決まったこの段階で準備しておきましょう。
なお、周りからの信用性を考慮すると、無料ホームページサービスではなく独自にサイトを構築する手段のほうが望ましいと言えます。利用するレンタルサーバーを決めてドメインを取得したら、ウェブサイトのある程度の枠組みは作っておきましょう。
【手順その2】設立に向けて準備を進める
設立項目を設定したら、手続きの準備に取り掛かります。まずは、決定した商号で登記できるかを確認するために、類似商号の調査を行います。
類似商号の調査は、本店予定地の管轄法務局で調べることができます。法務局で「商号調査簿」を確認し、同一住所内に類似商号がないかについてチェックしておきましょう。
商号の確認が済んだら、次は上記で決めた事業目的が登記可能かどうかについて確認します。こちらに関しても、法務局の相談窓口などで調べることが可能です。
【手順その3】定款を作成し、認証を受ける
次は定款を作成していきます。定款とは、会社の目的や内部組織など、株式会社の概要を記載する書類です。以下で挙げる項目は、定款作成において必要不可欠なものとされています。
・商号
・会社や事業の目的
・本店所在地
・設立の際に出資される財産額、またはその最低額
・発起人の氏名と住所
・発行可能な株式の総数
上記の項目を記載した定款を作成したら、公証役場へと足を運びます。公証役場では、公証人より定款の認証を受けることになりますが、定款の認証では「会社の本店所在地を管轄する法務局、または地方法務局の所属公証人」と定められているので、本店所在地から利用するべき法務局・公証役場を探しておきましょう。
紙媒体の場合、定款の認証時に4万円の費用が必要になることも忘れてはいけません。なお、認証をよりスムーズに済ませたい場合には、電子定款も検討してみましょう。電子定款の場合は、定款の認証もインターネット上で行うことができます。
【手順その4】役員の就任承諾書を作成する
事前に代表取締役や監査役を決定しても、本人にその意思がなければ意味がありません。仮に本人が拒否をすると、株式会社をスムーズに設立することが難しいので、就任承諾書は必ず作成する必要があります。
就任承諾書は、就任予定の方が署名・捺印を行うことで効力を発揮します。この書類は設立登記時に提出することになるので、事前にきちんと準備しておきましょう。
【手順その5】資本金を払い込む
設立登記の前には、出資者が資本金を払い込むことも必要です。事前に決めた資本金を出資者が払い込んだら、以下の書類の作成へと移りましょう。
〇払込証明書
払込証明書とは、出資者から資本金の払い込みがあったことを、会社の代表者が確認してから作成する書類です。払い込みがあった旨を記載した書類を準備し、その書類と預金通帳の写しを合綴することが一般的です。
〇資本金の額を計上する書類
金銭以外に現物の資本が存在する場合は、こちらの書類も必要になります。この書類は、出資者が払い込んだ資本金から株式会社設立時にかかった費用を差し引き、登記時に記載する会社の資本金を表すものとなります。
【手順その6】登記書類を作成する
次は、登記書類の作成へと移ります。登記には以下の書類が必要となるので、事前にきちんと確認しておきましょう。
・定款
・資本金の払込証明書
・役員の就任承諾書
・印鑑証明書
・発起人の決定書
・登録免許税貼付用台紙
・株式会社設立登記申請書
・印鑑届出書
・登記事項を記録した書類など
各書類の概要に関しては、後述で詳しく解説します。なお、登記事項を記録した書類に関しては紙面でも問題ありませんが、パソコンを使用して作成し、フロッピーディスクやCD-Rにデータとして記録しておくとスムーズに作成できます。
上記のすべての書類をそろえたら、いよいよ設立登記へと移っていきます。
【手順その7】法務局で設立登記を済ませる
設立登記の方法は、法務局で手続きをする方法、郵送で書類を提出する方法、インターネット上で手続きをする方法の3つに分けられます。いずれの方法を選んでも、前述でご紹介した必要書類を提出すれば、設立登記は完了となります。ただし、必要書類にひとつでも不備があると、手続きを済ませることはできません。
なお、株式会社の設立日は、設立登記の書類を提出した日付となります。設立日にこだわりを持っている方は、その点に気を付けながらタイミングを選ぶようにしましょう。
提出書類に問題が見つからなければ、通常は1週間~10日ほどで登記が完了します。
【手順その8】開業の届出をする
登記が完了すると、登記事項証明書や印鑑証明書の取得が可能な状態となります。これらの書類は、届出の際に提出が求められることもあるので、登記が完了したら早めに取得するようにしましょう。
なお、登記が完了したからと言って、株式会社として事業をスタートできるわけではありません。一般的な会社と同じように動き出すためには、各種届出が必要となります。
必要な届出は企業ごとに異なりますが、以下でご紹介する書類はほとんどのケースにおいて必要です。
〇税金関係の書類
・法人設立届出書
都道府県や市町村から提出が求められる書類です。この書類が自治体への開業届となり、地方税を納める自治体が決定します。
なお、この書類は株式会社の概要を伝える目的で、税務署に提出する必要もあります。
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
この申請書を提出しない場合、源泉徴収が毎月行われることになります。そうなると、創業当初は経営の負担になりかねないので、一般的にはこの書類を提出することで、源泉徴収を年2回の納付にするケースが多くなっています。
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
従業員や役員への給与・賞与を経費として計上するには、この書類の提出が必要となります。決済対策にもつながる書類なので、こちらも必ず提出しておきましょう。
・棚卸資産の評価方法の届出書、減価償却資産の償却方法の届出書
こちらは必ず必要になる書類ではありませんが、会社によってはこれらの書類を提出することで節税につながります。特に、多くの在庫を抱える可能性がある場合には、これらの書類により在庫商品の計算方法を明らかにしておくことが望ましいです。
・青色申告の承認申請書
株式会社において青色申告は、税制上有利になるものです。そのため、青色申告を提出できるように、事前に承認申請書を提出しておきましょう。
〇社会保険・労働保険関係の届出
・労働保険の保険関係成立届、概算保険料申告書
いずれの書類も、従業員を雇う場合には必ず必要になる届出となります。1人でも従業員を雇う場合、労働保険料を納付するためにこれらの書類を提出しなければなりません。
・雇用保険の適用事業所設置届、被保険者資格取得届
上記の書類と同様に、従業員を雇う場合に必要となる届出です。これらは雇用保険に関する書類となります。
・健康保険の厚生年金保険新規適用届、厚生年金保険被保険者資格取得届、健康保険被扶養者(異動)届
健康保険に関する書類であり、これらも従業員を雇う場合は必ず必要になります。
このように、株式会社の設立にはさまざまな届出が必要です。「提出書類が多すぎてよく分からない…」という方は、弁護士などの専門家に依頼することも検討してみましょう。
■設立に必要な書類&入手方法まとめ
ここまで、株式会社設立の手順についてご紹介してきました。株式会社の設立には複数の書類が必要になりますが、「書類の入手方法が分からない…」といった声は少なくありません。
そこで以下では、設立登記に必要な書類の概要と入手方法についてご紹介していきます。
〇発起人の決定書
株式会社の発起人を示す書類です。基本的には自分で用意をする書類であり、以下の項目を含めるケースが一般的です。
・発起人の住所と氏名
・資本金の額
・設立時取締役
・本店所在地
・発起人の署名と捺印
発起人の決定書は、インターネット上にテンプレートがいくつか見られるので、参考にしながら作成してみましょう。
STEP8‐③ 登記書類の作成方法【1-B】|自分でできる会社設立
〇登録免許税貼付用台紙
登録免許税納付用台紙は、A4の白紙で代用することが可能です。領収証書を中央に貼り、登記申請書に使用する印鑑で捺印をすれば、あとは提出するだけで登録免許税を支払うことができます。
〇株式会社設立登記申請書
登記の申請書も、基本的には代表者が自身で作成する書類です。法務局のホームページにいくつかテンプレートが用意されているので、そのテンプレートを参考に申請書を作成していきましょう。
商業・法人登記の申請書様式:法務局
〇印鑑届出書
株式会社の代表者印を登録するための書類です。提出書類は法務局に置かれているので、書類を手に入れたら必要事項を記入し、会社代表者印と代表取締役個人の実印を押印します。
あとはその書類を提出すれば、印鑑証明書を取得できます。
■株式会社を設立するメリットは?
ここまでは、株式会社を設立する手順や方法についてご紹介してきました。では、そもそも株式会社の設立には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?具体的なメリットが分からなければ、「わざわざ手続きをしてまで、設立をする必要はないのでは?」と感じることでしょう。
そこで以下では、株式会社を設立するメリットについてご紹介していきます。
【メリットその1】節税対策の幅が広がる
個人事業主の場合と比較すると、株式会社は経費として計上できる費用が増えます。そのため、株式会社は節税対策を行いやすく、人によっては手元により多くの資金を残すことが可能です。
【メリットその2】信用性が高まる
株式会社を設立することで、社会的な信用性は高まります。その結果、新たなビジネスチャンスをつかめるかもしれません。
また、世の中には株式会社でないと、取引を行えない企業も存在しています。そのような企業と取引ができる点も、株式会社の大きなメリットです。
【メリットその3】相続税がかからない
個人事業主の場合、その事業主が死亡すると全ての資産が相続税の対象となります。それに対して株式会社では、会社の保有財産に関しては経営者が死亡しても相続税の対象には含まれません。
つまり、将来相続することを想定した場合、株式会社のほうが節税対策を施しやすくなります。
【メリットその4】雇用者を見つけやすくなる
求職者にとっては、個人事業主よりも株式会社のほうが雇用主として安心しやすいと言えます。そのため、株式会社を設立することで、より優秀な人材を見つけやすくなるでしょう。
事業を効率的に拡大するためには、優秀な人材は必須となります。
■株式会社を設立するデメリットは?
株式会社の設立には、当然デメリットも存在しています。そのデメリットも踏まえた上で、株式会社を設立するべきか慎重に判断しなくてはなりません。
そこで次は、株式会社設立のデメリットについてご紹介していきましょう。
【デメリットその1】手続きが必要になる
この記事でご紹介した通り、株式会社の設立にはさまざまな手続きが必要となります。一時的な手間とは言え、ケースによっては「手続きにかかる時間がもったいない」と感じることもあるでしょう。
ただし、弁護士などの専門家に依頼することで、会社設立の手続きは任せられます。時間を節約したい方は、第三者に依頼する方法も積極的に検討してみましょう。
【デメリットその2】コストが増大する
従業員を雇う場合、社会保険料や給与などのコストが増大します。利益が少ない企業の場合、これらのコストが経営の大きな負担となる恐れがあるでしょう。
【デメリットその3】報酬
代表者(社長)の報酬は、原則として1年間は変更できません。そのため、1年の間に会社の経営状況が好転しても、代表者個人はその利益を十分に受け取れない可能性があります。
■まとめ
いかがでしたでしょうか?
株式会社を設立するには、複数の手順を踏まなくてはなりません。ただし、事前に正しい手順と必要書類を理解しておけば、経験のない方でもスムーズに株式会社を設立することは可能です。今回ご紹介した情報を参考に、これからどのように行動をするべきか計画を立てていきましょう。
なお、株式会社の代表者は、会社を設立した後にもやるべきことが多くあります。事業をスムーズに進めるのはもちろん、新たな資金調達手段を探したり、常に経営計画を見直したりなど、さまざまなことに取り組まなくてはいけません。
そのため、株式会社を設立したからと言って一息をつかず、設立後にも効率的に動くことを意識しておきましょう。