世の中の法人や個人事業主はさまざまな手段で資金を調達していますが、「手形」を利用する方法もそのひとつです。手形は多くのシーンで活用されていますが、手形には約束手形・為替手形の2つの種類があるので、まずはこの違いをしっかりと理解しておく必要があります。また、手形の振出人・受取人にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、手形の利用を検討している方はその点も理解しておくべきでしょう。
そこで今回は、約束手形の概要やメリット・デメリットについてご紹介していきます。
■手形とは?
手形とは、小切手のようにお金に代わる働きをする有価証券のことです。例えば、手元に現金がない会社(A社)が、ある会社(B社)の商品やサービスを購入する場合に、現金の代わりに手形を発行することで取引を行えます。
この手形の理解を深めるために、まずは振出人と受取人の違いを知っておきましょう。
・振出人…手形を発行した者
・受取人…振出人から最初に手形の交付を受けた者
つまり、上記の例で言えばA社が振出人、B社が受取人となります。手形には支払期日が記載され、振出人はその期日までに現金を支払うことが必要です。
一般的なケースでは手形が発行されると、その支払いは銀行を窓口として行われます。
■約束手形と為替手形の違いを解説
前述でもご紹介しましたが、手形には約束手形と為替手形の2種類があります。両方とも手形には違いありませんが、それぞれ異なる特徴を持っているので注意しておきましょう。
以下では、約束手形と為替手形の違いを解説していきます。
【違いその1】支払人がいるかどうか
上記でご紹介した、振出人・受取人の2者間で取引される手形を「約束手形」と言います。窓口となる銀行は存在しますが、約束手形ではそれ以外に登場人物が増えることはありません。
それに対して、振出人・受取人・支払人の3者間で取引される手形は、「為替手形」と呼ばれています。支払人は振出人に委託される存在であり、最終的に受取人へは支払人が現金を支払うことになります。より分かりやすく説明するために、以下ではA社・B社・C社の3社を例に挙げて、為替手形が利用されるシーンを見てきましょう。
A社…振出人
B社…支払人
C社…受取人
上記のA社はB社から入金される予定があり、その資金をC社への支払いに充てる予定だったとします。しかし、そうなると資金がB社からA社、A社からC社へと2回動くことなるので、資金がスムーズに動きません。
このような場合に、B社から直接C社へ現金を支払う手段として、為替手形は利用されています。資金の動きがスムーズになることで、各社時間のロスを防ぐことができます。
【違いその2】利用される目的
約束手形と為替手形は異なる特徴を持っているので、利用される目的にも違いが見られます。では、具体的にどのような目的で使用されるのかについて、詳しく見ていきましょう。
・約束手形
約束手形は主に、買掛金よりさらに支払いを延期したい場合に利用される手形です。具体的な期間はケースによって異なりますが、2ヶ月~半年程度の延期を目安として考えると良いでしょう。
・為替手形
為替手形はその特徴から、主に海外との取引で見られます。海外との取引では、現金を直接送る際にリスクが生じる恐れがあるので、そのリスクを抑える手段として為替手形が利用されます。
また、上記のA社とB社のように買掛金(売掛金)が存在し、第三者へ現金を支払う必要性があるシーンでも、為替手形は利用されています。
このように、手形には2つの種類がありますが、一般的に日本国内で利用されているのは約束手形となります。以下では、約束手形の振出人・受取人の両方から見たメリット・デメリットについて解説していきましょう。
■振出人のメリット
【メリットその1】支払いを延期できる
約束手形の振出人にとってのメリットは、何と言っても支払いを延期できる点です。現金が手元になくても取引を行えるので、資金繰りに苦しんでいる時期であっても、約束手形を利用することで事業を進められるでしょう。
例えば、仕入れと取引先からの入金にズレが生じたり、トラブルで経費が発生したりなど、会社が資金繰りに悩まされるタイミングは少なくありません。スムーズな経営には現金が必須となるので、約束手形の利用方法はしっかりと理解しておくべきです。
なお、支払いの延期を直接相談する方法も考えられますが、約束手形を発行する方法と比べると、どうしても説得力に欠けてしまいます。約束手形には相手方を納得させる効力もあるので、資金繰りに悩んでいる場合は利用を検討してみましょう。
【メリットその2】利息が発生しない
金融機関から融資を受ける場合には、返済時に利息が発生します。この利息の負担によって、資金繰りが悪化してしまうケースも少なくありません。それに対して、約束手形を発行して期日に現金を支払う場合は、基本的に利息が発生しません。
つまり、約束手形は余計なコストが生じない取引方法であり、これは振出人にとって大きなメリットと言えます。
■振出人のデメリット
【デメリットその1】支払いが遅れると信用を失う
約束手形の支払いが遅れた場合、振出人は受取人に対して支払いの延期を相談することになります。受取人がこれに応じると、約束手形は一度振出人の元に戻され、新しい手形が発行されます。これは「手形のジャンプ」と呼ばれる手段ですが、この手形のジャンプによって振出人の信用性は大きく下がってしまう恐れがあるでしょう。
また、振出人の当座預金口座が不足すると、受取人に対する支払いは行われなくなり、この状態を「不渡り」と言います。半年以内にこの不渡りを2回行うと、以後2年間は銀行取引が停止されてしまい、新規の貸付も利用することができません。
つまり、約束手形の支払いが遅れると、会社の信用を大きく落とすだけでなく、会社が倒産してしまう恐れもあるのです。したがって、約束手形の発行を検討している場合は、金額や支払期日を慎重に設定する必要があるでしょう。
【デメリットその2】受取人との交渉が不利になる
約束手形は支払いを延期する手段なので、受取人から「資金繰りに困っている」「貸しを作った」などと思われる恐れがあります。そうなると、受取人との別の交渉においても不利な立場になり、理不尽な要求をされてしまうかもしれません。
受取人との関係性が変化する可能性があるので、約束手形の発行は慎重に判断するべきでしょう。
■受取人のメリット
【メリットその1】手形割引を利用できるようになる
手形割引とは、満期になっていない約束手形を換金する手段のことです。具体的には、現金の受取権利を第三者に譲渡し、その代わりに現金を得ることができます。
割引料と呼ばれる手数料は発生しますが、受取人は銀行や手形割引業者に申し込めば、好きなタイミングで手形を現金化できる可能性があります。資金の調達方法が増える点は、多くの会社にとって大きなメリットと言えるでしょう。
ただし、手形割引には審査があるので、必ずしも現金化に成功するわけではありません。また、約束手形が不渡りの状態になると、換金した手形を買い戻す必要性が生じるので、その点にも注意が必要となります。
【メリットその2】振出人との交渉が有利になる
支払いの延期を認めたことにより、受取人は振出人に対して有利な立場を築ける可能性があります。そうなると、別の部分での交渉において、要求の幅が広がるかもしれません。
また、場合によっては「あの会社は資金に余裕がある」といったイメージを与えられるので、新たなビジネスチャンスにつながる可能性もあります。
【メリットその3】資金回収の確実性が高まる
約束手形は口約束での支払い延期に比べると、資金回収の確実性が高い手段です。支払期日を設定できる上に、振出人にとって不渡りのリスクは大きいものなので、口約束のように「支払われないかもしれない…」と不安を感じすぎる必要はありません。
■受取人のデメリット
【デメリットその1】資金を回収できない恐れがある
上記では資金回収の確実性が高まると説明しましたが、振出人が不渡りの状態になると、資金を回収できない可能性があります。不渡りにより手形の効力がなくなることはありませんが、銀行など振出人以外の者には約束手形の支払い義務が生じないためです。
仮に振出人の会社が倒産し、振出人の支払いが不可能になると、約束手形が価値のない紙切れになってまう恐れがあります。
【デメリットその2】支払期日を過ぎると不払いのリスクが高まる
約束手形の換金時期は、支払期日を含む3営業日です。この支払期日を過ぎると、銀行で約束手形を換金することはできなくなり、受取人は振出人に直接支払いを請求しなければなりません。
ここで、大きな問題が生じる可能性があります。換金時期を過ぎると、振出人は支払いを延期しても不渡りの状態にはならないので、場合によっては支払いを拒否される恐れがあるでしょう。
このような事態を避けるため、中には約束手形を前もって受け取り、支払期日になったら自動的に手続きをしてくれる銀行なども見られます。上記のようなケースに不安を感じている方は、約束手形を受け取ったらすぐに銀行などに預けておきましょう。
■まとめ
いかがでしたでしょうか?
約束手形は、振出人・受取人の両方にメリットとデメリットがあります。会社を経営するのであれば、振出人・受取人のどちらにもなる可能性があるので、今回ご紹介した内容をきちんと理解しておきましょう。メリットやデメリットを理解した上で、適切なタイミングで約束手形を利用することが大切です。
また、資金繰りに困っている場合には、ほかの資金調達方法も検討するべきです。企業の資金調達方法は多くありますが、もしあなたの会社に安定的な売掛金がある場合には、売掛金を売却することで資金を得られる「ファクタリング」と呼ばれる手段が効果的です。
ファクタリングは中小企業の資金調達方法として注目されており、ほかにも信用情報に影響しないなどのメリットが見られます。ファクタリングについて詳しく知りたい方は、資金プロのホームページでまずは無料診断を受けてみましょう。
ファクタリングで10秒カンタン資金繰り改善!売掛金買取・売却・事業資金の資金調達プロ