起業をする際には、「自己資金」と呼ばれる資金を用意することが一般的です。自己資金に関する必要金額などのルールは特に決められていませんが、自己資金は事業にも大きく関わる資金なので、中には自己資金のねん出に長期間かける起業家も見られます。
では、そもそもこの自己資金とは、どのような資金を指すのでしょうか?また、自己資金がなければ、起業することはできないのでしょうか?
ここではそんな疑問を解決するために、自己資金の概要について分かりやすくご紹介していきます。
■自己資金とは?
自己資金とは、起業家が事業のために用意した、自分自身のお金のことを指します。つまり、金融機関や公的機関からの融資・出資によって得たお金は、自己資金には含まれません。
同じような意味合いで使用される言葉として「資本金」がありますが、自己資金と資本金は厳密には異なります。資本金は会社の設立時に登記される資金であり、その中には融資・出資による資金も含まれます。また、資本金を増額・減額するためには一定の手続きを行う必要があり、資本金に関する情報は一般的に公表されることになります。
では、自分が所有しているお金であれば、全て自己資金として扱われるのでしょうか?結論から言うと、中には自己資金として扱われないものもあるので注意が必要です。自己資金として認められないものとしては、主に以下のお金が挙げられるでしょう。
・タンス預金…銀行の口座などではなく、自宅で貯蓄しているお金は、「見せ金」として認識されてしまう恐れがあります。
・親族から借り入れたお金…親族から借り入れたお金にも、基本的に返済義務があります。一般的に、返済義務のあるお金については、自己資金として扱われることはありません。
・金融商品…株式や投資信託などの金融商品も、自己資金として認められない可能性があります。これらの商品を現金化すれば、もちろん自己資金として扱うことが可能となります。
ここまで自己資金の概要をご紹介してきましたが、なぜ起業にはこの自己資金が必要になるのでしょうか?その理由は、融資に関する要件にあります。
事業に必要な資本金は多額に上るので、金融機関などからの融資を利用する起業家は多いことでしょう。しかし、多くの融資制度には、自己資金の金額に関する要件が含まれています。例えば、「融資額は自己資金の10分の1まで」と定められている制度を利用する場合、自己資金が少なければ必要な資金を借入できない恐れがあるのです。
では、金融機関などから融資・出資を受ける際には、どれぐらいの自己資金を貯めておくべきなのでしょうか?具体的な金額は会社によって異なりますが、一般的には事業に必要な資金の2分の1~3分の1は貯めておくことが望ましいとされています。1,000万円の事業であれば350万円~500万円前後、1,500万円の事業では500万円~750万円前後が必要な自己資金の目安となります。
自己資金が極端に少ないと、融資に不利になるだけでなく経営リスクも高まります。例えば、返済義務のある資金で事業に失敗すると、自分の資金がなくなるだけでなく、多額の借金を抱える恐れがあるためです。その点に注意しながら、起業への準備を進めるようにしましょう。
■自己資金の作り方4選
自己資金の必要性については、すでにお分かりいただけたことでしょう。では、その自己資金を作るにはどうすれば良いのでしょうか?自己資金にはさまざまな作り方があり、人によって適した方法は異なります。
以下では、自己資金の主な作り方と各方法の特徴をご紹介していくので、自分に適した方法を見極めていきましょう。
【その1】開業前に貯蓄をする
多くの起業家は、自己資金を作るためにサラリーマンとして働き、開業前からコツコツと貯蓄をしているでしょう。これは最もオーソドックスな方法であり、着実に目標金額を貯められる点、リスクを抱えることがない点、将来的に始める事業に関する専門スキルを身につけられる点などのメリットがあります。
ただし、必要な自己資金が多額に上る場合は、目標金額に達するまで長年を要してしまうでしょう。どのような事業にも望ましいタイミングがありますが、資金調達に時間がかかりすぎると、そのタイミングを逃しかねません。
【その2】副業で収入を得る
「本業だけでは自己資金を貯められない…」という方は、副業に取り組むことも検討してみましょう。副業をすれば、単純に収入を増やすことにつながりますし、現代ではネットビジネスを始め副業の選択肢が数多く見られます。
ただし、副業をすると負担が増大するので、健康面には細心の注意を払う必要があります。身体を壊してしまっては起業どころではないので、自分にかかる負担も考慮しながら、副業に取り組むべきか慎重に判断することが大切です。
なお、サラリーマンや副業によって自己資金を貯めると、職種によっては事業のための人脈を築ける可能性があります。
【その3】投資をする
株式や投資信託など、投資をすることで資金を増やす方法もあります。投資に成功すれば、短期間で自己資金を集められる可能性がありますし、人によっては経済や社会に関する知識も身につけられるかもしれません。
しかし、投資には当然リスクがつきものであり、逆に自己資金が減ってしまう恐れもあります。さらに、ある程度の資金を所有していなければ、そもそも投資に参加することができません。
投資に潜んでいるリスクは、投資方法によって変わってきます。例えば、株式投資は景気の影響を受けやすい投資ですが、国外に投資するタイプの投資信託であれば、国内の景気の影響を大きく受ける可能性は低いでしょう。複数の投資先に資金を分散させる、分散投資と呼ばれる手法もリスクヘッジとしてよく活用されています。
また、投資する金額を調整する方法でも、投資のリスクはある程度抑えられます。投資を検討している方は、各投資方法にどのようなリスクヘッジがあるのかを把握した上で、資金を費やすようにしましょう。
なお、金融商品は基本的に自己資金に含まれないので、起業前に現金化をする必要がある点には注意が必要です。
【その4】所有している資産を売却する
不動産や車など、何らかの資産を所有している場合には、その資産を売却することで資金を得られます。資産売却による資金調達は、短期間で資金を集めることができるので、実際にこの方法で資金を調達している起業家も少なくありません。
ただし、所有している資産については、融資を受ける際に担保にできる可能性があります。ケースによっては、資産を売却するより担保として扱ったほうが、大きなメリットを得られるかもしれません。
そのため、将来的に担保が必要な融資制度を利用する予定があるか、現時点での資産の時価などを確認した上で、売却するべきかどうかを慎重に判断するようにしましょう。
■自己資金がなくても諦める必要はない!
上記でご紹介したように自己資金にはさまざまな作り方がありますが、中には「事業の開始予定時期に資金の用意が間に合わない…」「自己資金をねん出する余裕がない…」と悩んでいる方もいることでしょう。実は、そのような自己資金不足に悩んでいる方でも、融資・出資を諦めるべきではありません。
自己資金がほとんど集まっていない状態でも、工夫次第では融資・出資を受けられる可能性があるためです。また、仮に融資・出資が受けられなかったとしても、起業をすることは不可能ではありません。
では、具体的にどのような手段があるのかについて、以下で詳しく見ていきましょう。
【その1】日本政策金融公庫を利用する
日本政策金融公庫(日本公庫)とは、主に中小企業や起業家を支援している政府系の金融機関です。融資制度としては、新規開業資金や新創業融資制度などが知られていますが、日本公庫が実施する融資制度の中には、自己資金が全くない状態でも融資を受けられる制度があります。
代表的なものとしては、「中小企業経営力強化資金」が挙げられるでしょう。この制度には自己資金に関する要件が存在しておらず、最大で7,200万円(うち運転資金4,800万円)の融資を受けられる可能性があります。
なお、2,000万円までは無担保・無保証での融資も可能であり、金利も比較的低い傾向にあります。ただし、融資には認定支援機関の条件と指導を受けることが条件とされているので、地域の認定支援機関については必ず調べておきましょう。
【その2】補助金・助成金制度を利用する
各自治体などが実施している補助金・助成金制度の中にも、自己資金に関する要件がない制度は見られます。一般的な補助金・助成金制度では、集められる資金が100万円~300万円程度となりますが、事業内容によってはこの資金でも十分に起業できる可能性があります。
ただし、実施されている補助金・助成金制度は地域によって異なるので、まずは起業する地域の情報を収集してみましょう。なお、補助金・助成金制度には申し込み期間があるため、好きなタイミングで利用できるわけではありません。
【その3】事業計画書の質を高める
事業計画書の質が高く、審査担当者を納得させることができれば、自己資金ゼロでも融資を受けられる可能性があります。難易度は高いですが、自己資金がほとんどない状態で銀行から1,000万円前後の融資を受けたケースも少なからず見られます。
ただしこの方法を選ぶ場合は、審査担当者に「この事業は成功率が高い」と感じさせる必要があるでしょう。そのためには、事業計画書の内容を何度も見直し、計画自体の質を高めなくてはなりません。
ほかの事業計画と差をつけるには、情報収集と分析に力を入れて、根拠のある計画を練り上げることが必要です。事業計画の質を高めておけば、会社の経営リスクも抑えられる可能性があるので、融資を諦めきれない方は積極的に挑戦してみましょう。
【その4】必要な資金を減らす
「資金が不足している」と感じたら、起業や事業にかかる資金を減らす方法も考えてみましょう。入念に作成した事業計画でも、もしかしたら不必要な費用が含まれているかもしれません。
また、例えば飲食店における食器洗浄機のように、「あれば作業効率が高まるけれど、なくても営業できる設備」を削る手段も考えられます。そのほか、本社を構える立地条件を緩くしたり、不動産の広さや新しさの面で妥協したりする手段などがあるでしょう。従業員のマニュアルや店舗の構造を工夫することで、購入しない設備の働きをカバーできるかもしれません。
必要な資金が減れば、融資の審査も通りやすくなりますし、事業をスタートできる時期も早まります。そのため、今一度事業計画書を見直し、不必要な資金がないか入念に確認してみましょう。
■自己資金ゼロでも起業できる8つのアイデア
融資や出資を受けられなくても、工夫をすれば自己資金ゼロで起業をすることは可能です。以下では、具体的な起業アイデアを8つご紹介していくので、参考にしながら最適なビジネスプランを考えてみましょう。
【その1】ネットショップでお店を開く
「店舗を構える資金がない…」と悩んでいる方はいませんか?実は物件を用意する資金がなくても、インターネットを活用すればお店を構えることは可能です。
ウェブサイト「BASE」では、無料でネットショップを開設することができ、初期費用も月額費用も必要ありません。商品の内容や価格はもちろん、数量や配送方法も細かく設定できるので、商品数が多くなければ特に不自由も感じないでしょう。
店舗を構える資金は、起業家の方にとって大きなコストになるので、その部分を節約できる点は大きなメリットと言えます。
【その2】代行ビジネス
代行ビジネスとは、お客に代わってあることを行うビジネスです。代表例としては、家事代行や販売代行などが挙げられるでしょう。
代行ビジネスは店舗を構える必要がありませんし、代行する内容によっては特別な道具がなくても仕事をこなせます。多くの方が「面倒くさい…」と感じていることを代行すれば、需要も自然と高まることでしょう。
売上を伸ばすには「行動」が必要になるビジネスなので、アクティブな方に適しているビジネスと言えます。
【その3】パソコン1台でできるビジネス
特別な道具や店舗がなくても、人によってはパソコンを1台持っているだけで、ビジネスをすることは可能です。例えば、Webデザイナーやライティングなどの業界は、スキルさえあれば多方面から必要とされるので、パソコンを使って自宅で作業をすることができるでしょう。
近年では、「クラウドソーシング」と呼ばれるウェブサービスで、パソコン関連の仕事が多く紹介されています。パソコンに関連するスキルを持っている方は、そのようなサービスを活用して仕事を探してみましょう。
【その4】マッチングビジネス
マッチングビジネスとは、人と仕事、人と人などを繋げるようにサポートすることで、利益を得るビジネスを指します。代表例としては、会社と人を繋げる就職支援・転職支援ビジネスなどが挙げられるでしょう。
近年では、就職支援サイトや転職支援サイトを開設し、集客をすることで安定した収入を得ている方も見られます。もちろん、インターネットを介さずに経営者と税理士などをマッチングさせるビジネスも可能なので、興味のある方は自分に適したスタンスを見極めてみましょう。
【その5】コンサルタント業
コンサルタント業とは、主に自分が持っている知識を人に教えることで、利益を得るビジネスのことです。代表例としては、集客コンサルタントや起業コンサルタントなどが挙げられるでしょう。
近年ではコンサルタントも多様化してきており、経営コンサルタントやマーケティングコンサルタントなど、幅広い分野にコンサルタント業が存在しています。そのため、あなたに何かしらの得意分野がある場合には、その知識を活かして利益を生み出せるかもしれません。
お客の元へ直接足を運ぶコンサルタント業であれば、会社を構える物件費用も必要ないでしょう。
【その6】広告収入で利益を得るビジネス
インターネットの広告収入で利益を得るビジネスも、特に資金を必要としないビジネスです。代表例としては、アフィリエイトやフリー素材サイトの運営などが挙げられるでしょう。
このビジネスで重要になるのは、「アクセス数」を稼ぐことです。幅広いユーザーが興味を示すコンテンツを用意できなければ、多くのアクセス数を稼ぐことはできません。
ただし、逆にアクセス数が一度安定すれば、資金を費やさずとも多くの収入を得られる可能性があるでしょう。
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【その7】技術を販売するビジネス
知識ではなく、あなたの技術を販売するビジネスも特に資金を必要としません。例えば、英会話講師やヨガトレーナーなどとして開業すれば、教室となる場所を借りることによって、物件費用を抑えられるでしょう。
ただし、技術を販売するためには、特別な技術を備えておく必要があります。また、一般的な人に比べて高い技術も求められるので、このビジネスを検討している方は、一流と認められるように自分が持っている技術を日々磨くことが大切です。
【その8】清掃業
お客が指定した場所やモノを掃除する清掃業も、ほとんど資金を必要としないビジネスです。清掃器具は必要になりますが、基本的にはお客の元へ出張して掃除を行うので、店舗となる物件は必要ありません。
ただし、掃除をする対象物によっては、高価な機器が必要になることもあるので注意が必要です。清掃業を検討している場合は、「何を対象にし、その対象物を掃除するためにはどのような道具が必要なのか」を事前に明確にしておきましょう。
■まとめ
いかがでしたでしょうか?
多くの起業家は、自己資金をねん出した上で事業を始めていますが、自己資金がないからと言って起業を諦める必要はありません。工夫次第では事業の必要資金を減らすことができますし、自己資金がなくても融資・出資を受けることは可能なためです。
自己資金のねん出に悩んでいる方は、今回ご紹介した方法を参考にしながら起業資金の調達に取り組んでみましょう。